top of page

三筋町 - 「三筋町界隈」 斎藤茂吉 1937(昭和12)年1月

  • 執筆者の写真: 浅草文庫
    浅草文庫
  • 2018年10月6日
  • 読了時間: 1分

 それから父と二人は二人乗の人力車で浅草区東三筋町五十四番地に行ったが、その間の町は上野駅のように明るくはなかった。やはり上ノ山ぐらいの暗いところが幾処もあって、少年の私の脳裡には種々雑多な思いが流れていたはずである。さてその五十四番地には、養父斎藤紀一先生が浅草医院というのを開いていたので、其処にたどりついたのである。


 医院はまだ宵の口なので、大きなラムプが部屋に吊りさげられてあって光は皎々と輝いていた。客間は八畳ぐらいだが紅い毛氈などが敷いてあって万事が別な世界である。また、最中という菓子も毎日のように食うことが出来る。




Comments


Commenting on this post isn't available anymore. Contact the site owner for more info.
bottom of page