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宮戸座・小芝居 - 「生い立ちの記」 小山清 1954(昭和29)年10月1日

 納豆屋は五十がらみのおばさんで、手拭をかぶり、手甲、脚絆に身を固めていた。金歯を填めているのが見え、いつも酸漿を口に含んでいた。売り声にも年季が入っていて、新米には真似られない渋さがあった。この人は、その頃、観音さまの裏の宮戸座に出ていた沢村伝次郎(いまの訥子)に岡惚れしていた。荷を格子戸の外に置いたまま、台所のとばくちに腰を下ろして、母を相手に、伝次郎の演ずる勘平や蘭蝶のうわさをしていくことがあった。




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