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浅草六区・ひょうたん池 - 「如何なる星の下に」 高見順 1939(昭和14)年1月-1940(昭和15)年3月

  • 執筆者の写真: 浅草文庫
    浅草文庫
  • 2018年10月25日
  • 読了時間: 1分

 一体美佐子が私に六区へ行こうと誘ったのは、今は離れている六区への郷愁、離れたくなかったのに離れ、それへの未練が絶ち切れない六区の舞台へのやるせない想い、そのせいと察せられた。そうと明らかに察せられるような言葉を美佐子は道々口にした。ところが、いざ来て見ると、火に誘惑されてそのなかに飛び込んだ虫とあたかも同じような苦痛に襲われたようであった。その苦痛から逃れるため、暗い池へと逸れたらしいのであった。


 私たちは橋の上へ来て、ほッとした。それが私たちの足を思わず橋の上にとどめさせた。私はそうした腑甲斐ないような自分に照れ、池の彼方に「びっくりぜんざい」と「大善」のネオンが河にかかった仕掛花火のように大きく美しく輝いているのに眼をやって、「ほう、綺麗だな」と言った。それが私の足をとどめさせた体裁にした。





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