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隅田川・大川・屋形船 - 「残されたる江戸」 柴田流星 1911(明治44)年5月

 川びらきの夜に始まりて、大川筋の夕涼み、夏の隅田川はまた一しきり船と人に賑わうをつねとする。


 疇昔は簾かかげた屋形船に御守殿姿具しての夕涼み、江上の清風と身辺の美女と、飛仙を挟んで悠遊した蘇子の逸楽を、グッと砕いて世話でいったも多く、柳橋から枕橋、更には水神の杜あたりまでも流れを溯って、月に夜を更かし、帰るさは山谷堀から清元の北洲に誘られた玉菊灯籠の見物に赴くなど、それぞれの趣向に凝ったものだが、今は大川の涼みにも屋形船の影を見ること稀々で、名残は兵庫屋、河内屋などの船宿にその幾艘を有するのみ、歌麿の絵にある趣はまた見られずなったが、どうかしてこれらを再興したいものだと、一部の人々は折角そう思っておる。




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