パンの会 - 「ヒウザン会とパンの会」 高村光太郎 1936(昭和11)年
- 浅草文庫
- 2019年7月17日
- 読了時間: 1分
更新日:2019年7月20日
雷門の「よか楼」にお梅さんという女給がいた。それ程の美人というんじゃないのだが、一種の魅力があった。ここにも随分通いつめ、一日五回もいったんだから、今考えるとわれながら熱心だったと思う。「よか楼」の女給には、お梅さんはじめ、お竹さん、お松さんお福さんなんてのがいて、新聞に写真入りで広告していた。私は昼間っから酒に酔い痴れては、ボオドレエルの「アシツシユの詩」などを翻訳口述してマドモワゼルウメに書き取らせ、「スバル」なんかに出した。
わが顔は熱し、吾が心は冷ゆ
辛き酒を再びわれにすすむる
マドモワゼルウメの瞳のふかさ
といった有様だった。

Comments