仲見世 - 「乞はない乞食」 添田唖蝉坊 1930(昭和5)年10月
- 浅草文庫
- 2018年10月15日
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明るい仲見世の人の急流の中を、八十八ヵ所廻りの判をペタペタ押した白衣を着て、子供を連れて歩く跛の女乞食、永年の間、吾妻橋の上に坐って、赤ン坊を泣かしてゐた乞食であるが、近来は衣裳を替へて、仲見世の眩ゆい電光の中に進出してきた。
鈴を鳴らして御詠歌をうたひながら、仲見世の舗道を急流に洗はれる杭のやうに、ゆっくり往来する。
綺麗な芸妓がよけて通る。 若紳士が銀貨を与へる。
かくして三、四回この舗石の上を往復すると、明日の白い米と、刺身と寝酒の代がとれる。彼女の亭主は四年前死んだが、乞食の親分だった。田舎から乞食が上ってくると、下谷山伏町の彼の家に「顔出し」にきたものだ。
亭主が死んでも彼女は姐御です。

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