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川蒸気・一銭蒸気(ポンポン船) - 「生い立ちの記」 小山清 1954(昭和29)年10月1日

 震災で焼け出されて、向島の親戚の家に厄介になっていた頃、母は毎日のように外出したが、帰りが夜おそくなることが度々あった。私はそのつど母のことが心配になり、家にじっとして待っていることが出来なかった。私は隅田川を通う蒸気船の発着所まで出向いて、そこにあるベンチに腰かけて、母の帰りを待った。いくつか船を見送った後で、ようやく母の顔を見出しては、ほっとして共に帰った。母を迎えに行く途中、隅田堤を通ってくるが、堤の下にある二階家の明りのついた障子の中から、酒に酔った男達の騒ぐ声が聞えてくることがある。そんなとき私には、その中で母がいじめられているのではなかろうかという妄想が起きてくるのだった。




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