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「浅草とは?」 - 「如何なる星の下に」 高見順 1939(昭和14)年1月-1940(昭和15)年3月

 そして、――そのくせに、私は浅草をうろついて、一見すべての人に対して申し訳ないような、ぐうたらな生活を送っていた。私が浅草のアパートに部屋を借りた理由は、前に述べた。だが、盛り場はいろいろとあるのに、なぜ特に浅草を選んだかということについては述べなかった。私はそれまで、盛り場としては銀座を愛していたが、とみに銀座や銀座的なもの、私のうちにおける銀座的なものに嫌悪を覚え、同時に、浅草は民衆の盛り場というぼんやりした(いい加減な)概念に惹かれて、私は浅草へ来たのだ。私はそこで、民衆の群のなかに自分を置きたいと思った。(これも、いい加減な概念的なものだった。)――民衆の持っている素朴さ、率直さ、強靭さ等々で自分の神経を揉んで、ヒステリーを直したいと思った。だが……。





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