いまなら、さしづめ、傾いた月の、明易く曳いた横ぐもの、ふか/″\とこめた梅雨どきの蒼い靄の、さうしたいろ/\の触目のあはれは、夜店の、夜あかしの、さうしたいろ/\の喰物やの屋台の外にこれをみ出して、一層そこに強められ、あるひはふかめられるだらう。……そのいのちに触れるからである。うきくさのその果敢ないいのちにはツきり触れるからである。……といふことは、わたしをしていまいはしめよ。夜店の、夜あかしの、さうした喰物やこそ、休息した東京の、疲れ果てた東京の、見得も外聞もふり捨てた東京の、うそもかくしもないそのすがたをさういつても寂しく語るものである。
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