その「区役所横町」(最近までわたしはそれを承服しなかった。強情にわたしは「でんぼん横町」といいつづけた。が、たま/\わたしと同年配の、それこそ「珍世界」の太鼓をたたく猿の人形も知っていれば、電気館のあごなしの口上いいもよくおぼえているさる人の、躊躇なくそこを「区役所横町」と呼びなしているのを聞いてわたしは我を折った。「区役所横町」では身につかない感じだがやむを得ない)を入ってすぐのところに以前共同厠のあったことをいっても、おそらくだれもその古い記憶をよび起すのに苦しむだろう。それほど、整った、美しい、あかるい店舗の羅列をその両側がもつにいたったのである。ことにその下総屋と舟和との大がかりな喫茶店(というのはもとよりあたらない。といってそも/\の、ミツマメホオルというのもいまはもうあたらない。ともにその両方がガラスの珠すだれを店さきに下げたけしき――この頃の暑さにむかってのその清涼なけしきがいまはまれにしかみられない「氷店」といった感じをわたしに与えるのである)のすさまじい対立は「新しい浅草」の繁栄とそれに伴う無知なよろこびをいさましくそこに物語っている。――下総屋は「おかめ」の甘酒から、舟和はいも羊羹製造から、わずかな月日に、いまのようなさまにまでおの/\仕上げたのである。
top of page
bottom of page
Комментарии