浅草に現はれる乞食は、みなそれぞれに風格を具へてゐるので愉快である。乞食といふ称呼をもってする事は、この諸君に対してはソグハないやうな気がするくらいだ。いかにこれらの諸君が人生の芸術家であるか、また、浅草を彩るカビの華であるかといふことについて語らう。
浅草といふ舞台には、かかる登場者が順次に現はれ、消えてゆく。
指がなくて三味線を弾く男――。彼はロハベンチに腰を掛けてゐる。左の手の指が四本ない。残った拇指で、煙管の半分に折れた吸口の方を挟み、その吸口の膨れた部分、凹んだ部分を巧みに利用して絃をおさへる。バチの代りにマッチの棒で弾く。
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