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浅草の食・ひょうたん池 - 「如何なる星の下に」 高見順 1939(昭和14)年1月-1940(昭和15)年3月

 私たちは橋を渡ったすぐ右手にある「おまさ」という茶店に寄った。夏のうち、よくそこで食べた三盃酢のところてんを、――涼しくなると共に忘れていたが、ちょうど無理に詰め込んだお好み焼で胸がやけていた折柄、食べようと思いついて、美佐子を誘ったのだ。「――寒いわね」と美佐子は言ったが、反対はしなかった。


 瓢箪池の島には「おまさ」のほかに、そうした店が左手にもう一軒あって、これは私たちが橋の上から眺めていたネオンの方へ向いていて、この店は反対側の噴水のある方に向けて縁台を並べていた。夏向きでこの季節むきではない縁台に腰をおろすと、瓢箪池がまるでこの店に属している私有の池のような感じで眺められた。美佐子も、ところてんを注文した。





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