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浅草の食・屋台・夜店 - 「夜店ばなし」 久保田万太郎 1931(昭和6)年7月

  • 執筆者の写真: 浅草文庫
    浅草文庫
  • 2018年10月1日
  • 読了時間: 1分

 ……大風呂横町と源水横町との間の、不思議とその一つにだけ名のなかつた横町の角に荷を下ろした飴屋のちやんぎり。……そのちやんぎりの一トしきりの音の止んだとき、両側の、どこの屋根の上にも、看板のかげにも、勿論広い往来のどこの部分にも、そのときすでに日のいろは消えてゐた。そして両側の、茂り交した柳の木末に早くも、「夕暮」は下りた。……といふことは、蝙蝠がとんで、水のやうに澄んだ空に早くも星の瞬きが生れた。

 そのときである。すしやの屋台、天麩羅やの屋台、おでんやの屋台。……夜店へ出るそれ/″\の屋台が誓願寺の地中から一トしきりそこにつゞいた。……たとへば泊りへいそぐそれ/″\の船のやうに……  が、そのくせ、どこにもまだ燈火のかげはさしてゐない。




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