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浅草オペラ・レビュー - 「如何なる星の下に」 高見順 1939(昭和14)年1月-1940(昭和15)年3月

 私はぬるくなった茶を飲んで、

「そう言えば、公園の踊り子さんたちは、いつも子供ばかりだな。大きくなると、次々にやめて行って、――かわりにまた子供が出てくる」

 私はこの数年、公園の舞台に花のようにパッと咲いてはいずれも花のように散ってどこかへいなくなってしまった実にたくさんのレヴィウの踊り子たちのことを考えさせられた。何か寂しい想いが胸に来る。

「どうしてやめるのかしら」

「だって、踊っていたってしょうがないんですもの」

「しょうがないといえば、しょうがないが……」

「――焼けたわ。お皿」

 ほいきたと皿を渡しながら、

「――やはり舞台にあきるのかね」

 彼女はそれに答えず、慣れた手つきで、四つに切った肉片を素早く小皿に取ると、鉄板に残った肉汁が赤褐色の泡を立ててジジジと焼きつくのを、扁平のはがしで器用にすくい上げて皿に移し、

「このおつゆがおいしいわね」

 そう言って、はいと皿を私にくれ、

「――あたしなんか、あきたわけじゃないんだけど」

 つぶやくように言った。

 じゃ、どうしてやめたのか。聞こうとして、あんまり立ち入りすぎると思って、控え、銚子に手をやると、

「お酌しましょうか」

「――いや、どうも」

 銚子を取り上げて、私に注してくれた。白い、肌理のこまかい手で、指のつけ根にえくぼが浮ぶ。

「そりゃねエ」

 ポツンと言って口を噤むのに、

「――え?」

と、私が言った。

「いえね、さっきの話」

 ああそうかとうなずくと、

「そりゃ、あきてやめる人もあるかもしれないけど、でも、大概の人はあきてやめるわけじゃないと思うわ」

 私は黙って盃を傾けていた。

「なんていうんでしょう。自然とやめなくちゃならないようになってるのね。そう思うわ」





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