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浅草オペラ・レビュー - 「如何なる星の下に」 高見順 1939(昭和14)年1月-1940(昭和15)年3月

 私は雅子の方にそッと眼をやった。雅子はサーちゃんと並んで、脚を揃えて立っているのだが、そのみずみずしく、つややかな、ほんとうに汚れのない感じの、ふっくらとした脚を(くどい文章を読者よ許されよ。未熟な私は、その脚が豊かにたたえている魅力的要素の数々をなんとしたら伝えられるだろうといたずらに焦るばかりで、簡潔的確の表現を見出せないのだ。どうせくどい以上、さらに言えば)つまもうとしても指が滑ってつまめないような、そのくせちょっと固いものに触れても皮膚が破れて薄紅色の透明な血がサッとしぶくであろうかと思われる、その脚を雅子は恥かしそうに横にくねらせていた。ああなんという蠱惑的な線だろう。だが同時に、その美しい線が現わしている羞恥に、私はやや大げさに言えば、ギョッとした。おそらくはこれも雅子と会ったための、私の気のせいだろうとは思うが、――数日前、楽屋へ初めて私が訪れたとき、雅子が裸の膝を隠そうとスカートをしきりとひっぱっていた、その時の雅子の羞恥とは何か違った、いやなものが感じられた。いやな、――私にとって、つらい感じなのだ。


 だがすぐダンシング・チームは二手に別れて舞台の裾へ駆け込み、雅子は私の視線から隠れ、かわって「愉快な四人」がギターを弾きならしながら、舞台に登場した。





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