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浅草寺(浅草観音) - 「如何なる星の下に」 高見順 1939(昭和14)年1月-1940(昭和15)年3月

  • 執筆者の写真: 浅草文庫
    浅草文庫
  • 2018年11月6日
  • 読了時間: 1分

 ――私たちは観音堂をまわって、右手の裏に来ていた。観音堂前の賑わしさ、雑踏は、左にそれて、その裏はうそのように寂しかった。ついそこの、つい今通ってきた仲見世の賑わいが夢のような感じのする、そこは蕭条とした場所だった。


 森鴎外がその撰文を書いたという、九代目団十郎の「暫」の銅像がある。そのさきに、お坊さんたちのモダンな住いがあり、その角の公孫樹の下に寂しい場所に似合わない公衆電話がポツンと立っている。折から、被官稲荷の方から参詣の帰りらしい粋な女が出てきて、その前でちょっと思案する足をとどめて足もとの公孫樹の落葉に眼を落したが、さっと身をひるがえして、公衆電話のなかに入った。寂しい周囲のため異様に際立つそのなまめかしい風情からか、またはそうした寂しい場所の人目につかぬ公衆電話というところからか、――好きな男へ電話をかけるのだろう、いやかけるのに違いないと、奇妙な的確さで想像されるのだった。私のうちに小柳雅子への慕情がこみあげてきた。





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