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長國寺・鷲神社・浅草酉の市 - 「回想録」 高村光太郎

  • 執筆者の写真: 浅草文庫
    浅草文庫
  • 2019年7月19日
  • 読了時間: 1分

 歳末になると、父は車を引張ってお酉様の熊手を売りにゆく。いろんな張子を一年かかって拵え、家の中を胡粉の臭いでいっぱいにし、最後に金箔をつけて荷車に積んで売りに行ったものだ。そんなことが二三年続いたと思うが、つまり仏師の仕事だけでは食って行けなかったのだ。だがそうしている間に、彫刻家として認められる機会がちょいちょい出て来た。父の仕事振りを偶々通りすがりの石川光明さんがよく見ていて、その世話で展覧会に出品するようになった。矮鶏などは、その頃拵えたものだ。あの矮鶏は非常によかったと今でも思う。私は五つ位の時だったが、矮鶏の鶏冠の円いものなどうまく本当のように出来るものだというようなことを感じて見ていたことを微かに覚えている。それから皇居の御造営があって、皇后様の御部屋の狆なども拵えた。





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