隅田川・大川 - 「娘」 岡本かの子 1939(昭和14)年1月
- 浅草文庫
- 2018年9月25日
- 読了時間: 1分
今戸橋、東詰の空の霞の中へ、玉子の黄身をこめたような朝日が、これから燃えようとして、まだ、くぐもっている。その光線が流れを染めた加減か、岸近い水にちろちろ影を浸す桜のいろが、河底の奥深いところに在るように見える。
黄薔薇色に一幅曳いている中流の水靄の中を、鐘ヶ淵へ石炭を運ぶ汽艇附の曳舟が鼓動の音を立てて行く。鴎の群が、むやみに上流へ押しあげられては、飛び揚って汐上げの下流へ移る。それを何度も繰返している。

Comments