top of page

隅田川・大川・花見 - 「娘」 岡本かの子 1939(昭和14)年1月

更新日:2018年10月3日

 室子は、隅田川を横切って河流の速い向島側に近く艇を運んで、桜餅を買って戻る蓑吉を待っていた。  水飴色のうららかな春の日の中に両岸の桜は、貝殻細工のように、公園の両側に掻き付いて、漂白の白さで咲いている。今戸橋の橋梁の下を通して「隅田川十大橋」中の二つ三つが下流に臙脂色に霞んで見える。鐘が鳴ったが、その浅草寺の五重塔は、今戸側北岸の桜や家並に隠れて彼女の水上の位置からは見えない。小旗を立て連ねた松屋百貨店の屋上運動場の一角だけが望まれる。崖普請をしている待乳山聖天から、土運び機械の断続定まらない鎖の音が水を渡って来る。




最新記事

すべて表示

隅田川・大川・屋形船 - 「残されたる江戸」 柴田流星 1911(明治44)年5月

川びらきの夜に始まりて、大川筋の夕涼み、夏の隅田川はまた一しきり船と人に賑わうをつねとする。  疇昔は簾かかげた屋形船に御守殿姿具しての夕涼み、江上の清風と身辺の美女と、飛仙を挟んで悠遊した蘇子の逸楽を、グッと砕いて世話でいったも多く、柳橋から枕橋、更には水神の杜あたりまでも

Kommentarer


Kommentarsfunktionen har stängts av.
bottom of page