隅田川・大川 - 「水の東京」 幸田露伴 1902(明治35)年2月
- 浅草文庫
- 2018年10月2日
- 読了時間: 1分
東京広しといへども水の隅田川に入らずして海に入るものは、赤羽川と汐留堀とのほか幾許もなし。されば東京の水を談らんには隅田川を挙げて語らんこそ実に便宜多からめ。
けだし水の東京におけるの隅田川は、網におけるの綱なり、衣におけるの領なり。先づ綱を挙ぐれば網の細目はおのづから挙がり、先づ領を挙ぐれば衣の裙裾はおのづから挙がるが如く、先づ隅田川を談れば東京の諸流はおのづから談りつくさるべき勢なり。よつて今先づ隅田川より説き起して、後に漸くその他の諸流に及ぼして終に海に説き到るべし。
東京の水を説かんとして先づ隅田川を説くは、例へばなほ水経の百川を説かんとして先づ黄河を説くが如し、説述の次第おのづから是の如くならざるを得ざるのみ。さてまた隅田川を説きながら語次横に逸れて枝路に入ること多きは、これまた黄序に言ひけん如く、伊洛を談ずるものは必ず熊外を連ね、漆沮を語るものは遂に荊岐に及ぶ、また自然の偶属にして半離すべからざるものなればなり。

Comentarios