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仲見世 - 「​浅草公園 --或シナリオ--」 芥川龍之介 1927(昭和2)年3月14日

  • 執筆者の写真: 浅草文庫
    浅草文庫
  • 2018年9月17日
  • 読了時間: 1分

 メリヤス屋の露店。シャツやズボン下を吊った下に婆さんが一人行火に当っている。婆さんの前にもメリヤス類。毛糸の編みものも交っていないことはない。行火の裾には黒猫が一匹時々前足を嘗めている。


 行火の裾に坐っている黒猫。左に少年の下半身も見える。黒猫も始めは変りはない。しかしいつか頭の上に流蘇の長いトルコ帽をかぶっている。

「坊ちゃん、スウェエタアを一つお買いなさい。」 「僕は帽子さえ買えないんだよ。」

 メリヤス屋の露店を後ろにした、疲れたらしい少年の上半身。少年は涙を流しはじめる。が、やっと気をとり直し、高い空を見上げながら、もう一度こちらへ歩きはじめる。



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