top of page

吉原遊郭(新吉原) - 「桜林」 小山清 1951(昭和26)年7月1日

 吉原の縁日は午の日で土地柄賑やかな夜店が出た。その日には界隈の町の人たちも、大門口から五丁目の非常門から裏門からそれぞれ詰めかけてきて、素見客の仲間も常よりは多くその賑いは格別であった。夜店商人は夕方の三時頃からぼつぼつ検査場横の空地に集まってきた。荷車を引いてくる者、自転車を利用している者、大風呂敷を背負って徒でくる者、さまざまであった。いい加減集まったところでくじ引きをして、各自割当てられた場所へ荷を運ぶ。植木屋だけはいつもひとかたまりになって、夜店の列の尽きるあたりに店を出していた。この場所ぎめの際の一喜一憂する表情は見ていて面白かった。くじ運のいいとわるいでは、その夜の商いに覿面にひびくわけである。夜店の並ぶ場所は、震災後もずっと後になっては水道尻に限られたが、その頃は仲の町から水道尻一帯にかけてであった。ただ桜や菊の季節にはその美観を守るために、仲の町を避けて貸座敷のある通りに移った。



Comments


Commenting has been turned off.
bottom of page