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吉原遊郭(新吉原) - 「日本三文オペラ」 武田麟太郎 1932(昭和7)年6月

 こんな不潔で不便でも、貸賃が安く、交通に都合がよいので、大抵の部屋はふさがつてゐるやうだ。六畳が十円で、ガス、水道、電燈料が一円五十銭——合計十一円五十銭の前家賃になつてゐる。多くは浅草公園に職を持つてゐるのであるが、彼らの借室人としての性質はどんなものであるか。


 そのうちでも、最もうるさいのは、暇のある女たちだらう。その中心には、吉原遊廓の牛太郎の女房が二人ゐて、彼女たちは昼は亭主がゐるので部屋に閉ぢこもつてゐるが、夜はお互ひの部屋を菓子鉢を提げて行き来し、女たちを集めて晩くまで噂ばなしに時をすごすのである。部屋の前には女のスリッパや草履が重なりあつて、彼女たちの高い笑ひ声はどこの部屋にあつても聞くことができる。





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