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吉原遊郭(新吉原) - 「生い立ちの記」 小山清 1954(昭和29)年10月1日

 私の家は吉原遊廓のはずれにあった。家の裏手には木柵が囲らしてあって、台所口の前にあたる所に格子戸がとりつけてあった。格子戸には鈴がついていて、開閉するたびに音を立てた。格子戸の際に、洗濯する場所が設けてあった。母が甲斐がいしい姿で洗濯していたさまが、いまも目に浮かぶ。母は洗濯しながら、外を通る人と、よく話をしていた。私の家の持家の長屋にいた、茂ちゃんという子が、木柵の外から顔を覗かせて、母に向い、「おばさん。ぼくの鼻は胡床をかいているでしょ。」と云った。「剽軽な子だよ。いまに落語家にでもなるんじゃないか。」と母は云っていた。




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