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宝蔵門(仁王門) - 「妖術」 泉鏡花 1911(明治44)年2月

  • 執筆者の写真: 浅草文庫
    浅草文庫
  • 2018年9月23日
  • 読了時間: 1分

 門の下で、後を振返って見た時は、何店へか寄ったか、傍へ外れたか。仲見世の人通りは雨の朧に、ちらほらとより無かったのに、女の姿は見えなかった。  それきり逢わぬ、とは心の裡に思わないながら、一帆は急に寂しくなった。

 妙に心も更まって、しばらく何事も忘れて、御堂の階段を……あの大提灯の下を小さく上って、厳かな廂を……欄干に添って、廻廊を左へ、角の擬宝珠で留まって、何やら吻と一息ついて、零するまでもないが、しっとりとする帽子を脱いで、額を手布で、ぐい、と拭った。 「素面だからな。」  と歎息するように独言して、扱いて片頬を撫でた手をそのまま、欄干に肱をついて、遍く境内をずらりと視めた。




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