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江戸三座・猿若町 - 「ある恋の話」 菊池寛 1919(大正8)年8月

  • 執筆者の写真: 浅草文庫
    浅草文庫
  • 2018年9月26日
  • 読了時間: 1分

 が、私は型に適っているかどうかは、知らなかったが、染之助の三浦之介は、如何にも傷ついた若い勇士が、可愛い妻と、君への義理との板ばさみになっている、苦しい胸の中を、マザマザと舞台に現しているようで、遠い昔の勇士が私の兄か何かのように懐しく思われたのでした。それ以来、私は毎日のように守田座へ行きたくなったのです。それで浅草へお参りに行くと云っては、何も知らない頑是のない綾ちゃん達のお母さんを、連れて守田座へ行ったものです。それも一日通しては見ていられないから、八つ刻から――そう今の二時頃ですが、染之助の出る一幕二幕かを見に行ったのです。終には子供を召使いに預けて、自分一人で毎日のように出かけて行くようになりました。




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