「浅草とは?」 - 「浅草哀歌」 北原白秋 1916(大正5)年7月
- 浅草文庫
- 2018年9月27日
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われは思ふ、浅草の青き夜景を、 仲見世の裏に洩るる短夜の葱のむせびを、 公園の便所の瓦斯を、はた、澄めるアルボースの香を。
あはれなる蛇小屋の畸形児を、かつは知れりや、 怪しげの二階より寥しらに顔いだす玉乗の若き女を、 あるはまた曲馬の場に息喘ぎ、うちならぶ馬のつかれを。
新しきペンキに沁みる薄暮の空の青さよ。 また臭き花屋敷の側に腐れつつ暗みゆく溝の青さは 夜もふけて銘酒屋の硝子うち覗くかなしき男のみや知りぬらん。
われは思ふ、かかる夜景に漂浪へる者のうれひを、 馬肉屋の窻にうつる広告の幻燈を見て蓄音機きけるやからを、 かくてまた堂のうしろに病める者、尺八の追分ふし。

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