奥山の四時過ぎの日こそさみしけれ。 あたたかにうち黄ばむ写真屋の古きならびは、 半盲目の病児らの日向ぼこをば見るごとく、 掲げたる鈍き写真のうちにくはせ者の女役者の顔のみ白く、 罎ならぶ窻のそば、露台にダアリヤの花ただひとつ赤けれども、 なべてみな色もなし、入口の静かなる空椅子のうへに、 みよりなき黒猫ぞひとりまた背を高めたる。
見るものの凡てみな『過ぎし日』のごとくさびしく、 疎ましき『忘却』の腐蝕よりのこされしものの痛さよ。 げに、白き横文字はその屋根に、いかがはしけれ、 The Art Photograph とぞ読まれぬる。
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