浅草寺(浅草観音) - 「妖術」 泉鏡花 1911(明治44)年2月
- 浅草文庫
- 2018年9月23日
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「更めて、一杯、お知己に差上げましょう。」 「極が悪うござんすね。」 「何の。そうしたお前さんか。」 と膝をぐったり、と頭を振って、 「失礼ですが、お住所は?」 「は、提灯よ。」 と目許の微笑。丁と、手にした猪口を落すように置くと、手巾ではっと口を押えて、自分でも可笑かったか、くすくす笑う。 「町名、町名、結構。」 一帆は町名と聞違えた。 「いいえ、提灯なの。」 「へい、提灯町。」 と、けろりと馬鹿気た目とろでいる。 また笑って、 「そうじゃありません。私の家は提灯なんです。」 「どこの?提灯?」 「観音様の階段の上の、あの、大な提灯の中が私の家です。」 「ええ。」と云ったが、大概察した。この上尋ねるのは無益である。

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