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淡島堂・江崎写真館 - 「鴎外の思い出」 小金井喜美子 1955(昭和30)年10月

 お堂の左手に淡島様があります。小さな池に石橋が掛っていて、それを渡る時には、池の岩の上にいつも亀が甲を干していました。お堂の中には、小指の先ほどの括り猿や、千代紙で折った、これも小さな折鶴を繋いだのが、幾つともなく天井から下っています。何を願うのでしょうか。

 淡島様の裏の方に、真白な毛色の馬が狭い処に入れられて、「御神馬」という札が掛けてあります。格子の前に、鳩のよりは少し大きい位の皿に餌が入れてありますが、遣る人はないようです。それを可哀そうに思いました。

 反対側に写真師の江崎があります。随分古くからそこにいるのだそうで、家内揃ってよく写しに行きました。そこらあたりには楊枝店が並んでいます。



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江崎写真館 - 「鴎外の思い出」 小金井喜美子 1955(昭和30)年10月

「これから江崎へ行くのだ」とおっしゃいます。  「江崎へ?」  私が目を見張りますと、  「そうだ、お前の写真を撮るのだ。」  私はびっくりして、口が開かれません。ただとぼとぼと附いて行きました。  幾分古びた西洋造の家の入口を入りますと、幸いに外に客はありませんかった。

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