長國寺・鷲神社・浅草酉の市 - 「如何なる星の下に」 高見順 1939(昭和14)年1月-1940(昭和15)年3月
- 浅草文庫
- 2018年11月6日
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お酉さまの晩は、公園の食いもの屋は二時まで営業が許される。「聚楽」の前へ行くと、二時までの営業のため帰れなくなる店員を店へ泊らせる用意のものだろう、夜具蒲団をうず高く積んだトラックがとまっていた。何か奇観で、私が思わず足をとどめると、
「あれ、一組十銭よ」と美佐子が言った。
「――え?」
「一晩借りるのが十銭」
「――なるほど」
トラックにのぼった男が、貸蒲団らしい薄っぺらなのを、蓆でも扱うように鋪道にじかにストンストンと落している。
「――楽屋泊りも、今思い出すと楽しかった」
「…………」
「お座敷で踊って、おいモダンさん、俺の方にも酌してくれナンテ言われるようになっちゃ、おしまいね。来年はいっそ旅に出ようかしら」

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