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隅田川の渡し - 「鴎外の思い出」 小金井喜美子 1955(昭和30)年10月

  • 執筆者の写真: 浅草文庫
    浅草文庫
  • 2018年10月2日
  • 読了時間: 1分

 毎日急ぎ足で学校へ通う道をぶらぶら歩いて、牛の御前の前を通り、常夜灯のある坂から土手へ上り、土手を下りて川縁へ出ると渡し場です。ちょうど船の出るところでした。

 私は真中にある仕切りに腰を下します。乗合はそんなにありません。兄様は離れたところに立っていられます。中流に出ますと大分揺れるので、兄様と目を見合せて、傍の席を指しますが、首を振って動かれません。

 ここから見る土手は、花にはまだちょっと間があるので、休日でもそんなに人通りがありません。ただ客を待つ腰掛茶屋の緋の毛氈が木の間にちらつきます。中洲といって、葦だか葭だかの茂った傍を通ります。そろそろ向岸近くなりますと、芥が沢山流れて来ます。岸に著いて船頭が船を杭に繋ぐのを待って、桟橋めいたものを伝わって地面に出ます。


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