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雷門・仲見世 - 「​浅草公園 --或シナリオ--」 芥川龍之介 1927(昭和2)年3月14日

 この玩具屋のある仲店の片側。猿を見ていた少年は急に父親のいないことに気がつき、きょろきょろあたりを見まわしはじめる。それから向うに何か見つけ、その方へ一散に走って行く。


 父親らしい男の後ろ姿。ただしこれも膝の上まで。少年はこの男に追いすがり、しっかりと外套の袖を捉える。驚いてふり返った男の顔は生憎田舎者らしい父親ではない。綺麗に口髭の手入れをした、都会人らしい紳士である。少年の顔に往来する失望や当惑に満ちた表情。紳士は少年を残したまま、さっさと向うへ行ってしまう。少年は遠い雷門を後ろにぼんやり一人佇んでいる。



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