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仲見世 - 「妖術」 泉鏡花 1911(明治44)年2月

 ちょっと隠れた状に、一帆の方へ蛇目傘ながら細りした背を見せて、そこの絵草紙屋の店を覗めた。けばけばしく彩った種々の千代紙が、染むがごとく雨に縺れて、中でも紅が来て、女の瞼をほんのりとさせたのである。  今度は、一帆の方がその傍へ寄るようにして、 「どっちへいらっしゃる。」 「私?……」  と傘の柄に、左手を添えた。それが重いもののように、姿が撓った。 「どこへでも。」  これを聞棄てに、今は、ゆっくりと歩行き出したが、雨がふわふわと思いのまま軽い風に浮立つ中に、どうやら足許もふらふらとなる。




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