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活動写真・連鎖劇 - 「手品師」 久米正雄 1916(大正5)年4月

 勿論作者と云ふ商売は面白くないものではなかつた。自分の書いたものが、白いシーツに写つたり、脚光に照らし出されたりして、観客の感情をいろ/\と唆り立てる事は、ひそかにそれを見てゐる彼にとつても尠なからず愉快であつた。一日と十五日には職工の休み日なので毎も満員であつたがその三階まで充満した見物の喝采が、背景の後ろにゐる彼の耳まで達する時、彼は思はず微笑んで四囲を見廻すのが常であつた。或時は特等席に来てゐる美しい芸者が忍び音に彼の悲劇に泣いてゐるのも見た。或時は豪放らしい学生が思はず彼の活劇に興奮してゐるのも見た。



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