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浅草名産・銘菓・玩具・仲見世 - 「鴎外の思い出」 小金井喜美子 1955(昭和30)年10月

 「これから仲見世だ、何でも買って遣るよ」とおっしゃるけれど、私はむっつりしていました。お母様と一緒だったのなら、きっと泣いたでしょう。何ということなしに窮屈なのです。大事なお兄様が優しくして下さるのに、偏屈な性質だから仕方がありません。

「何が欲しい」といわれても返事が出来ません。何もいらない、といいたいのを我慢していました。それでも仲見世にはいろいろ並んでいるのですから、ちょいちょい立止ります。

「簪かい、玩具かい」と、足を止められますので、入らないといっては悪いと気が附いて、小さなお茶道具を一揃い買ってもらいました。

「もっと何か」とおっしゃいます。 「また何か私の読める本でも買っていただきましょう。」 「うん、それもよかろう。今度は皆のお土産だ。」

 雷おこしや紅梅焼の大きな包が出来ました。


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