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玩具・観工場・仲見世 - 「三筋町界隈」 斎藤茂吉 1937(昭和12)年1月

 そのころ仲見世に勧工場があって、ナポレオン一世、ビスマルク、ワシントン、モルトケ、ナポレオン三世というような写真を売っていた。これらの写真は、私が未だ郷里にいたとき、小学校の校長が東京土産に買って来て児童に見せ見せしたものであるから、私は小遣銭が溜まると此処に来てその英雄の写真を買いあつめた。


 そういう英雄豪傑の写真に交って、ぽん太の写真が三、四種類あり、洗い髪で指を頬のところに当てたのもあれば、桃割に結ったのもあり、口紅の濃く影っているのもあった。私は世には実に美しい女もいればいるものだと思い、それが折にふれて意識のうえに浮きあがって来るのであった。ぽん太はそのころ天下の名妓として名が高く、それから鹿島屋清兵衛さんに引かされるということで切りに噂に上った頃の話である。





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