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長國寺・鷲神社・浅草酉の市 - 「鴎外の思い出」 小金井喜美子 1955(昭和30)年10月

  • 執筆者の写真: 浅草文庫
    浅草文庫
  • 2018年10月2日
  • 読了時間: 1分

更新日:2018年10月3日

 そこを過ぎて三島神社の前を通ります。その横からお酉様へ行く道になるのですが、私はお参りしたことがありません。いつもひどい人出だとのことで、その酉の日には、大分離れたここらまで熊手を持った人が往来します。その前日あたりから、この辺の大きな店で、道端に大釜を据えて、握り拳くらいある唐の芋ですが、それを丸茹にするのです。その蓋を開けた時にでも通りかかると、そこら中は湯気で、ちっとも見えません。それくらい量が多いのです。お酉様は早くから参るのですから、前日から支度をします。その茹で芋の三つか五つかを、柳でしょうか竹でしょうか、そうした物で貫いたのを環にして店に盛り上げます。熊手を肩に、その芋の環を手にしたのが、お酉様の帰りの姿でした。

 私が幼かった頃、いつも母の膝の上にいたがりますので、兄は私を、おかめ、おかめ、といわれました。母が熊手で、おかめがそれに附いていて離れないというのでした。そんな詰らないことも思出されます。


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