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浅草にまつわる、
小説・随筆・詩・俳句。
水飴色のうららかな春の日の中に両岸の桜は、貝殻細工のように、公園の両側に掻き付いて、漂白の白さで咲いている。今戸橋の橋梁の下を通して「隅田川十大橋」中の二つ三つが下流に臙脂色に霞んで見える。鐘が鳴ったが、その浅草寺の五重塔は、今戸側北岸の桜や家並に隠れて彼女の水上の位置からは見えない。小旗を立て連ねた松屋百貨店の屋上運動場の一角だけが望まれる。崖普請をしている待乳山聖天から、土運び機械の断続定まらない鎖の音が水を渡って来る。
岡本かの子
1889(明治22)年3月1日-1939(昭和14)年2月18日
小説家、歌人
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