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浅草にまつわる、

小説・随筆・詩・俳句

(おお、浅草よ。)
 私は感動に胸を締めつけられながら、浅草というものに、――その実体はわからない、漠然としたものだが、浅草というものに、手をさしのべたかった。さしのべていた。
(やっぱり浅草だ。)
 思わずそう心の中でつぶやいた。何か宙に浮いたような、宙で空しくもがいているような私を救ってくれるのは、浅草だ、やはり浅草に来てよかった、そんな気がしみじみとした。私は泣きたかった。うれしいのだ。――泣いていた。だが、それは浅草の客と一緒に映画に泣いていたのだ。私は浅草というものに対して涙を流したかったのだ。

高見順

1907(明治40)年1月30日-1965(昭和40)年8月17日

小説家、詩人

高見順|浅草文庫
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