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浅草にまつわる、

小説・随筆・詩・俳句

 二人は吾妻橋を渡って、浅草公園の中に入っていった。仲見世はすっかり焼け落ちて、灰かきもまだ進まず、殆んど全部がそのままになっていた。ただ道傍や空地には、カンテラや小暗い蝋燭を点して露店が出ていた。芋を売る店、焼けた缶詰を山のように積んでいる店、西瓜を十個ほど並べて、それを輪切りに赤いところを見せている店、小さい梨を売る店——などと、食い物店が多かった。

 蝋燭は、仁王門を入ったところの店に売っていた。杜はお千と相談して、五銭の蝋燭を四本と、その外に東北地方から来たらしい大きな提灯一個八銭とを買った。

「おお、生ビールがあるじゃないか。こいつはいい。一杯やろう」

海野十三

1897(明治30)年12月26日-1949(昭和24)年5月17日

小説家、SF作家、推理作家、漫画家、科学解説家

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