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浅草にまつわる、

小説・随筆・詩・俳句

 われは思ふ、浅草の青き夜景を、

 仲見世の裏に洩るる短夜の葱のむせびを、

 公園の便所の瓦斯を、はた、澄めるアルボースの香を。

 あはれなる蛇小屋の畸形児を、かつは知れりや、

 怪しげの二階より寥しらに顔いだす玉乗の若き女を、

 あるはまた曲馬の場に息喘ぎ、うちならぶ馬のつかれを。

 新しきペンキに沁みる薄暮の空の青さよ。

 また臭き花屋敷の側に腐れつつ暗みゆく溝の青さは

 夜もふけて銘酒屋の硝子うち覗くかなしき男のみや知りぬらん。

 われは思ふ、かかる夜景に漂浪へる者のうれひを、

 馬肉屋の窻にうつる広告の幻燈を見て蓄音機きけるやからを、

 かくてまた堂のうしろに病める者、尺八の追分ふし。

北原白秋

1885(明治18)年1月25日-1942(昭和17)年11月2日

詩人、童話作家、歌人

北原白秋|浅草文庫
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