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浅草にまつわる、

小説・随筆・詩・俳句

 お堂へ上る広い階段は、上り下りの人で押合いの混雑で、その中を分けて行くのです。大きな賽銭箱へおひねりを投入れてお辞儀をするのはお祖母様のまねです。気が附くと兄様が見えません。あたりを見廻しましたら、お籤の並びにあるおびんずるの前に立っていられました。いつか字引で見ましたら、それは賓頭盧と書くので、白頭長眉の相を有する羅漢とありましたが、大勢の人が撫でるので、ただつるつるとして目も鼻もない、無気味な木像です。それが不似合な涎懸をしているのは信者の仕業でしょう。

小金井喜美子

1870(明治3)1月19日/11月29日-1956(昭和31)年1月26日

歌人、翻訳家

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