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浅草にまつわる、

小説・随筆・詩・俳句

 その頃、蔵前に煙突の太く高いのが一本立っていて、私は何処を歩いていても、大体その煙突を目当にして帰って来た。この煙突は間もなく二本になったが、一本の時にも煙を吐きながら突立っているさまは如何にも雄大で私はそれまでかく雄大なものを見たことがなかった。神田を歩いていても下谷を歩いていても、家のかげになって見えない煙突が、少し場処をかえると見えて来る。それを目当に歩いて来て、よほど大きくなった煙突を見ると心がほっとしたものである。上京したての少年にとってはこの煙突はただ突立っている無生物ではなかったようである。

  • 旧浅草三筋町1・2丁目 斎藤茂吉歌碑

 

 浅草の 三筋町なる おもひでも

 うたかたの如や 過ぎゆく光の如や

斎藤茂吉

1882(明治15)年5月14日-1953(昭和28)年2月25日

​歌人、精神科医

斎藤茂吉|浅草文庫
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