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浅草にまつわる、

小説・随筆・詩・俳句

 到り観れば、話しに勝る大繁昌にて、池の周囲には、立錐の余地だに無く、黒山の人垣を築けり。常には、見世物場の間に散在して営業する所の「引懸釣」、それさへ見物人は、店内に充溢するに、増して、昨日一昨日までは礫一つ打つことならざしり泉水の、尺余の鯉を、思ふまゝに釣り勝ち取り勝ちし得べき、公開?釣堀と変りたることなれは、数百の釣手、数千の見物の、蟻集麕至せしも、素より無理ならぬことにて、たゞ、盛なりといふべき光景なるに呆れたり。

石井研堂

1865(慶應元)年8月14日/6月23日-1943(昭和18)年12月6日

編集者、明治文化史家

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