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浅草にまつわる、

小説・随筆・詩・俳句

 大提灯にはたはたと翼の音して、雲は暗いが、紫の棟の蔭、天女も籠る廂から、鳩が二三羽、衝と出て飜々と、早や晴れかかる銀杏の梢を矢大臣門の屋根へ飛んだ。

 胸を反らして空模様を仰ぐ、豆売りのお婆の前を、内端な足取り、裳を細く、蛇目傘をやや前下りに、すらすらと撫肩の細いは……確に。

 スーと傘をすぼめて、手洗鉢へ寄った時は、衣服の色が、美しく湛えた水に映るか、とこの欄干から遥かな心に見て取られた。……折からその道筋には、件の女ただ一人で。

泉鏡花

1873(明治6)年11月4日-1939(昭和14)年9月7日

小説家

泉鏡花|浅草文庫
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